美しい自然に囲まれたのどかで小さな街シュリッツ。そこにはいつもと何も変わらない時間がゆっくりと流れていた。ある日、ハンナは無口な転校生エルマーから呼び出され人気のない教室へ。ぎこちない会話の後で突然キスをされる。喜んだのも束の間、その時ABC警報(核兵器・生物兵器・化学兵器による攻撃に対する警報の総称)が鳴り始める。授業は中止され休校になるが、人々は逃げまどい校内は大混乱になってしまう。ハンナは弟ウリーのために家に戻り、エルマーは自分の車でハンナを家に迎えに行く約束をする…。
突然の原子力発電所事故に翻弄される少女とその恋人を描いたドイツ映画。
「みえない雲」は、原子力発電所の事故を一人の少女の視点で描いています。原子力発電所自体は一度も画面にでることはありませんし、なぜそれが起こったのかという説明もありません。しかし、一人の少女を通して描かれる世界はとても現実的。突然悲劇に見舞われた人が事故の詳細な情報を知るはずはなく、それをあえて見せるということは観客への”説明”でしかありえないため、不要です。そのような点で「みえない雲」のスタンスは好感が持てますし、垂れ流し的に生産されるパニック映画とは質の違いを感じさせます。
映画は3部構成的な形がとってあり、1部が平和な学校生活と恋の始まりを、2部が事故が起こり逃げ惑う人々の姿を、そして3部では事故のその後の世界が描かれます。この、ゆるやかな1部から、スリリングな2部への急な展開、そのまま緊張感を持続させる2部のストーリー展開は秀逸。主人公ハンナを演じるパウラ・カレンベルクや弟ウリーを演じるハンス=ラウリン・バイヤーリンクの巧さも相まって、1部〜2部の展開にはかなり引き込まれます。3部に入ってからは話が細切れになり、普段なら映画としてどうかと思うような感じですが、1、2部で引き込まれてしまった私は不覚にも自然に受け入れてしまいました…。たまにはこういうのもありかな、と思わされたというか。
ラブストーリーが主軸となっているためか、ところどころの描写に疑問点はあるものの、無意味に話を大きくしようとせず現実的な作風は好印象。さすがドイツ映画といったところでしょうか。
余談ですが、本作の原作はチェルノブイリ原発事故直後の1987年に発表され、数々の文学賞を受賞した小説「見えない雲」だそう。映画と小説では大筋の流れ以外はほとんど別の話のようですが、ぜひ小説の方も読んでみたいですね。