南米、アルゼンチンのブエノスアイレス。ユダヤ系の青年アリエルは、その下町の小さなガレリア(商店街)で、母のランジェリーショップを手伝っている。アリエルの父は、彼が生まれてすぐにイスラエルに戦争に行ったまま戻ってこないが、毎月、国際電話をかけてくる。何となく将来に不安を感じるアリエルは、ポーランド国籍のパスポートを取ろうとするが、本当に外国に行きたいのか自分でもわからない。そんな中、突然父が帰ってくるのだが…。
第54回ベルリン国際映画祭で審査員特別賞と最優秀男優賞をダブル受賞した作品。当サイトで初めてのアルゼンチン映画(多分)。
アルゼンチンにある小さなガレリア(商店街)を舞台に、主人公アリエルの成長、家族やガレリアの人々との繋がりが描かれています。
「僕と未来とブエノスアイレス」で特徴的なのは、カメラワーク。手持ちカメラによるブレた映像、細かなカット割り、ジャンプカット、クイックズームなどが多用され、常に”動き”があります。通常、手持ちカメラによる映像は、ドキュメンタリーのようなリアルさを出すために用いられますが、本作ではそれとは別の意図で用いられているように思います。それは、その場の雰囲気であったり、人々の気持ちであったり。
手持ちカメラのブレまくる映像は、ガレリアの騒々しさを描き出し、クイックズームはその人の動揺する気持ちを映し出します。一番おもしろかったのは、細かなジャンプカットを続けることで、その間に流れた”時間”を表現しているところ。上手く言葉が出せず、過ぎる時間。頭に血が上り、正確に感じることのできなくなる時間。細かなジャンプカットが、そのような様々な時間を表現しており、映画のおもしろさと同時に、巧さを感じます。
深く、もしくは、ベタに持っていく展開がそこかしこに存在するにも関わらず、深追いを避け、ライトなタッチ。自分の好きな場所であり、愛すべき人々がいるガレリア。それなのに、なぜか薄い不安を覚え、その場から逃げ去りたい(ポーランド人になりたい)と思う気持ち。その間際になって味わう、ガラス越しから見るような、疎外感を覚えるような気持ち。そして気づく、自分自身の本当の気持ち。実に上手く、現実を映し出した映画。
原題は「断ち切られた抱擁」(Amazonより)。うーん、わからないでもないですが…。個人的には「僕と未来とブエノスアイレス」のほうがしっくりくる。