
駆け出しの映画監督・木下と脚本家・坪井。ちょっとだけ顔見知りの2人は共通の友人である俳優の船木テツヲに誘われ、東京を離れて旅に出ることに。鳥取のとある温泉街にやってきた2人だったが、そこに船木の姿は無かった。どうやら五度寝してしまったらしい。気まずい雰囲気のまま、2人だけの小旅行がはじまるのだった…。
特に大きな出来事が起きるわけでもなく、ただ淡々と物語りは進んでいく。そこにあるのは”気まずい間”による小さな笑いのみ。でも、この”気まずい間”がたまりません。誰もが一度は経験したことであろう気まずい瞬間を、固定カメラでゆっくりと映し出す独特の世界観。日常の中にある何でもないような出来事を、ここまでのものに仕上げてしまう山下監督の手腕は見事としか言いようがありません。これまでも同じように”気まずさ”による笑いを表現してきた山下監督ですが、「リアリズムの宿」ではその完成度がかなり高い。映画自体の完成度もかなり素晴らしいです。
また、「リアリズムの宿」には、もうひとつ、”間”が存在しています。ちょっとだけ顔見知りという、木下と坪井の間の微妙な距離。これがまた可笑しい。2人の間の微妙で、絶妙な距離。これが”気まずい間”による笑いをより引き立てているのは言うまでもないでしょう。
主人公の坪井を演じるのは実力派俳優・長塚圭史。コメンタリーで、山下監督と脚本の向井さんが「長塚さんアドリブ上手いなぁと思って見ていたんですけど、後で台本読み直したら実はほとんどシナリオどおりだった。」ということを話していました。うん、まさに。”演技している”という感じが全く無く。ホント良い。
山本さんもすごくうまい。こちらもコメンタリーで「そのままだよね。」的なことを話していましたが、ホント素なんじゃないかと思うくらい自然。しかも、なぜかその風貌を見てるだけで笑えてくるっていう。この2人じゃなかったら、「リアリズムの宿」のおもしろさも半減したでしょうね。”日常であること”、”自然であること”がこの映画の一番の魅力ですから。
しかし、山下監督はこんなマニアックな映画を撮っておきながら、後に女子高生青春映画「リンダ、リンダ、リンダ」なんていう全く違うジャンルの傑作を撮るのだから不思議。「リンダ、リンダ、リンダ」も大好きですが、山下監督には「リアリズムの宿」のようなマニアックな作品を今後も撮り続けてもらいたいものですね。もちろん、山本浩司、山本剛史のW山本は起用の方向で。